2007年11月17日

「アメリカ弱者革命」

 「アメリカ弱者革命」を読みました。タイトルの前に「報道が教えてくれない」とあり、「なぜあの国にまだ希望があるのか」の副題がついています。ということは、裏を返せばかなり絶望したくなる現状があるということですね。

 巻頭のマイク・ウォーレン弁護士の話によると、

・飢えているアメリカ人 3100万人
・医療保険に入っていない人 4500万人
・大学授業料をカード払いにしている人の借金の平均4000ドル
・大学の学資目当てに軍に入隊する人のうち、本当に大学に行かれるのは35パーセント、卒業できるのは15パーセント

 イラク戦争に使った費用は2005年11月の時点で2500億ドル。これだけあれば7428人を4年生大学にやれるが、かわりに軍に入隊すれば費用を出してやるとリクルートしているそうです。生き延びて帰ってきてもPTSD で社会復帰できずにホームレスになる人もいます。アメリカでは大学を出ないとよい職につけないので、なんとかして大学に行きたいと考えるのだそうです。

 入隊すれば生活は保障されるけれど、将校になれるのは学歴のある裕福な家の出身者。帰ってきても退役軍人をケアする予算は削られているので医療を思うように受けられなかったり、ホームレスになっても優先される対象になっていないので、現実を知らない人たちが「兵士を支援しよう」などという黄色いリボンを飾っているのと裏腹に、悲惨な境遇に陥っています。

 帰還兵イヴァン・メディナさんの話。
「4月9日にバグダッドが陥落し、これで帰れると思った。イラク人も歓迎してくれた。いいことをしたんだと感動した。5月1日、ブッシュ大統領の終結宣言があったが、帰してもらえず、地獄が始まった。大量破壊兵器やそれに携わっているはずのフセイン側の人物や武装勢力を捜すために銃を持って民家を捜索してまわった。あるビルを捜索しているとき、5,6人のイラク人がはいってきて、アラビア語でわめき始めた。上官は『銃をとれ』と叫んで何がなんだかわからなくなった。マシンガンが発砲される音がした。僕達はビルを出るように言われて出たところでミサイルが撃ち込まれて気がついたらそこらじゅう血の海だった。破壊されたビルの周りには、中にいたイラク人の家族たちの手足が散らばってて、さっき僕が目を合わせて微笑んだ小さな女の子の体の一部を見たとき、僕は…」
彼は自分の魂の一部が壊れてしまった日を忘れないために写真を撮ったそうです。後に「イラク帰還兵反戦の会」を立ち上げました。

 筆者は取材中に電子投票に反対してハンスト中の人に出会います。その人は、アメリカではマスコミがコントロールされてしまっているので、海外のメディアが頼りだといい、筆者が日本に帰ると、なんと、彼から航空券が届いていました。フォックステレビと教会の言うことがすべて、という人たちの住む地域をまわって絶望的な気分になりながらも、彼は言いました。「ガンジーの偉大なところは、食べないことより問いかけをやめなかったことだろう」。

 184人に1台あるはずの投票機が貧困地区では1000人に1台しかなかった。治安の悪いところで何時間も待たされ、危険なのであきらめて帰った、8時間待ってはいっていったら、機械の調子が悪いと帰された、ケリーのボタンを押しても「ブッシュでよいですね」の確認画面が出た、交通違反切符を切られたことがあったら犯罪歴があるから投票権がないと言われた、など、選挙が公正に行われなかったことをうかがわせています。対ゴアの時もブッシュは本当は勝利していなかったのではないかとマイケル・ムーアも書いていましたね。紙の記録が残すようにしていないことにも問題がおおありです。

 もうひとつ気になるのは、JROTC (Junior Reserve Office Training Corp)です。貧困層を対象にしていて、登録した生徒に週3,4時間軍服の教官が指導して、指導力、教育、実務を身に着けさせるといっていますが、実際には絶対服従を教えています。厳しい訓練と体罰、繰り返し人前で与えられる屈辱感によって自尊心を壊して思い通り動かしやすくする入隊後の訓練キャンプに似ているとのことです。高校には銃持込禁止であるにもかかわらず、治外法権的に銃の訓練をし、国境近くの学校では空気銃を撃ってメキシコからの不法移民を実際に掴まえる訓練をするなど、「いいことをしているのだ」という達成感を持たせようとするところもあるそうです。

 マイノリティーの生徒は半強制的にJROTCに体育を教わっており、教官は体育そっちのけで軍のよいところを延々と話すので、JROTCを受けた生徒の40パーセントが入隊するそうです。

 これを読んで連想したのが、保坂展人さんが書いていらした中学に武道を取り入れることに触れた記事です。
なぜ中学で「武道」「ダンス」の必修なのか


 日本人にとっても示唆に富むこの本をぜひお読みになってみてください。
「報道が教えてくれない― アメリカ弱者革命」
堤未果著
海鳴社

「なぜまだ希望があるのか?」の答えはJROTCに反対する高校生のことばにも現れています。
そういう現実を知ってもただ悲観的に分析するだけでなく、一度挫折したら、今度は自分の知恵を武器に立ち上がって行動する勇気を持つことが大事なんだ。それが僕達みたいな普通の市民にとってつらい現実を変えていける唯一の方法なんだ」。
タグ:武道
posted by ヘリオトロープ at 13:31| Comment(0) | TrackBack(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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